Report:Leon Orcot

私どもは“愛”と“夢”を売る商売ですよ
年がら年中、ヤバイ動物を客に売っては悲惨な死に方をさせているくせに、どの面下げて「愛と夢」かと呆れ返る台詞だ。D伯爵は麻薬密売に人身売買、ワシントン条約違反に傷害・殺人・果ては競馬の八百長にいたるまでの大小さまざまな事件の容疑者なのだ。
無害そうにヘラヘラ笑っていても、敏腕刑事(編集部注:自称)である筆者の目はごまかせない。いつか必ず尻尾をつかんで、刑務所にぶち込んでやるぞ。

刑事さんにはこちらの文鳥などがおすすめかと(中略)
スリつぶして骨を食べるんですよ。怒りっぽいのはカルシウム不足でしょうから

初めて伯爵の店に事情を訊きに行った時の台詞。初対面の人間にこの毒舌。文鳥をスリつぶすだの骨を食うだのも、奴の悪趣味さを如実に表している。普段のうすら笑いが仮面であることのいい証明である。あの上辺の笑顔になぜ皆騙されるのであろうか。市警の刑事課の連中まで、奴のためにちょっとした調査ならほいほい引き受けるような有り様だ。筆者とDが諍いになると、刑事課の人間は刑事のくせに容疑者の味方をする。おかげで奴は調子づいて、部外者の分際で市警に出入りしまくっている。大体は土産(毎回甘い菓子)つきだ。そのうち贈賄容疑で逮捕してやる。

市民(にんげん)なんてどうでもいいんです
本音が出たな。大体伯爵は初めて会った時から、知り合いの人間が若くして死んだことよりも、変な白いトカゲが死んだことの方を嘆き悲しみくやしがるような奴だったのである(編注:やや大袈裟)。伯爵にとって人間など、その辺に転がっている石ころ程度の価値しかないのだろう。いや、石の下に虫でもいたら、奴にとっては石の方が大事に違いない。俺は石ころ以下か!? ふざけんな!

この惑星にはあなた方人間の常識や想像をはるかに超えた、
未知なる神秘の生命体がまだまだたくさん宿っています。
自分たちの知識の中にだけ世界を押しこめることこそ、人間の不遜というものですよ

「持ち主の意志に応じて孵る時期が変わる」という竜の卵の存在を、バカバカしいと言った筆者に対して。確かにちょっと頭ごなしに否定しすぎたかもしれないが、存在そのものが十分あやしいお前が言うから余計信じられないんだよ。しかも年下のクセにエラソーに説教しやがって、こんなデカイ態度でよく客商売が出来るものだ(編注:D伯爵は客には態度でかくありません)。

だからアメリカ人は嫌いなんですよ。
順応力のある現実主義者かと思えば楽天家を通り越したただの単細胞。
安っぽい正義感と自己満足のヒロイズムを混同した、天上天下唯我独尊の野蛮な肉食獣!

よくこれだけズケズケと、しかも次から次へと悪口が湧いて出るものだ。すでに早口言葉のレベルだ。普段からこういうことばかり考えているから、咄嗟にポンポン口から出るのに違いない。ここまでアメリカ人を嫌っていながら、なぜアメリカに住んでいるのか謎だ。だったら中国に帰って動物と一緒にテンジクにでも住めよ(編注:天竺は中国ではありません)。

まったくもって人間のやることってくだらないですね
この人を小馬鹿にした態度。しかも笑顔で言う所になんだかすごくタチの悪さが表れている。不快なら不快そうに、腹が立つなら怒ってみせればいいと思うのだが、この頃の伯爵はいつも貼りついたようなオリエンタルスマイルだった。年中薄ら笑いを浮かべていたせいで顔の筋肉が固まってしまっていたのかもしれない。或いは面の皮が厚すぎて、力一杯表情を作らないと表にでないとかな。そっちの方がありえそうだな(編注:ありえません)。

市長は当店のお得意さまなんですよ
伯爵の店の捜査令状を得るために、市長に掛け合いに行った時の事である。こともあろうに、市長の椅子に悠然と当の伯爵が座っていた。奴は市警ばかりか、市議会にまで手を回して好きに出入りしているのだ。果てはリトル・イタリーのマフィアのボスがお得意さまだったりチャイニーズマフィアの首領と(伯爵の祖父が)親交があったりで、一介の刑事の筆者は少しばかり分が悪い。だが俺は諦めないぞ。必ず奴の尻尾を(後略)。

ただ…当店の大切な商品がこれ以上犠牲にされないよう、幽霊だろうとストーカーだろうと、
D伯爵(わたくし)流のおしおきをしちゃおうかなと思ってますので、市警(みなさん)は
口出ししないでくださいね

伯爵の店のペットが販売先で殺された件で(伯爵の所の動物以外にも、多くのペットが犠牲になっている家だった)、死因調査を断った市警に対して。要は、調査を断る気なら、自分が独断で何をするかわからないぞと我々を脅しているのである。結局市警が折れて、本来は保健所あたりに回るはずの調査を筆者と同僚がやる羽目になった。あの時の凍りつくような空気を、筆者は十年は忘れないであろう。伯爵がどんな「おしおき」を考えていたか不明だが、どうせまた証拠を残さないに決まっている。犯罪を未然に防げた(と思われる)事だけは幸運だった。

それならとっととあのロクデナシのどてっ腹に大砲でもミサイルでも
ブチ込んでやればよろしーでしょーがァ

筆者がかつて射殺した凶悪犯の恋人が、筆者を恨んで弟のクリスと伯爵とを誘拐した時。ここの「ロクデナシ」は筆者を示す。巻き込んで悪かったとは思うが、この物言いはないだろう。俺はお前に巻き込まれてペルーまでさらわれちまった時だって、文句なんか言わなかったぞ(編注:いい人だ)。よく考えたら、俺は今まで伯爵のおかげでずいぶん色んな目に遭ってるじゃねえか。これでプラマイ0くらいなのに、ミサイルはないだろう。

"D伯爵"は人間を愛したりなんかしない。
希望なんてもはや人間(あなた)たちに抱いてはいないよ

上記の「人間なんてどうでもいい」「くだらない」発言よりも、さらにはっきりと人類への憎悪が表れている。伯爵は、筆者の弟など個別にであれば気に入っている人間もいるようなのだが(編注:あなたの方が気に入られていると思います)、人類全体に対しては凄まじいほど恨みを露わにする。無理に憎もうとしている所もある気がするが、それは希望的に過ぎるだろうか。

もうあなたに用はありませんね。これで二階級特進ですよ、おめでとうFBIさん
D伯爵(実際には伯爵の父)を追ってきた、FBIのハウエル捜査官に対して。ハウエルに奪われた鞄を取り返した後の台詞。FBIは死ねば階級が二階級上がる。要は殺すということだが、この回りくどい物言いが何とも小面憎い。それにしても、今までは動物を使って殺しをしていた伯爵だが、やはり自分の手で人を殺す事も朝飯前なんだな。市民の安全を守る警官としてとても野放しにはしておけない。たとえ海外に逃げようと、絶対に探し出してとっ捕まえてやるぜ!(編注:海外は市警の管轄ではありません)。

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